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組織モデルの革新 [思うこと]

▼いつごろからか正確な記憶はないが、「フィッシングメール」が筆者のところに届くようになった。
 「このたびご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、まことに勝手ながらカードのご利用を一部制限させていただきました。つきましては、以下へアクセスの上、カードのご利用確認にご協力をお願いします」とか、「当社では犯罪収益移転防止法に基づき、お取引を行う目的等を確認させていただいております。お客さまの取引についていくつか質問がございますので、下記のリンクにアクセスし、ご回答ください」といった内容のメールである。
 中にはカードの利用日時や利用場所、利用金額を具体的に挙げ、「ご利用の覚えのない場合は、下記により」手続きをするように、と言ってくるケースもある。
 「迷惑メール」に指定して「受信拒否リスト」に登録したりしてみたが、効果はなかった。どうやら送付元のアドレスを、機械的に毎回変更することが可能らしく、アドレスが1字でも変われば、筆者のパソコンは拒否せず受け取るのである。
 送り主は以前は「アマゾン」や「楽天」を名乗り、その後クレジットカードの会社や銀行、宅配便業者やNHKなどを騙っている。
 初めの頃はときどき舞い込む程度だったのだが、最近では毎日十数件、日によっては二十件を超えるメールが送られてくるようになった。

 筆者の感想を言えば、まず、「名簿」や「アドレス」の地下マーケットがあると聞いていたが、自分のアドレスもそこで売買されているのだな、ということだった。
 また、メールの送り主はあまり頭の働きの良い人間ではなく、この仕事に惰性で関わるばかりで、自分で工夫しようとする意欲に欠けている、とも思った。いかにもっともらしい内容であっても、同じ文面が一度に十数件も届いたら、誰も真面目に扱うはずがないという、最低限の判断力もないのだ。というよりも、おそらく彼の所属する組織の中で、指示されたことを何も考えずに、ただ機械的に繰り返しているだけなのだろう。

▼上の「フィッシングメール」の話は、犯罪組織のくだらなさ、そこでの活動のつまらなさを反映しているように見える。「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」、警官や弁護士、銀行員やらが登場する「劇場型詐欺」なども含め、21世紀の日本に現れたいわゆる「特殊詐欺」は、現れた初めのうちこそ新鮮さがあり、話題にもなった。しかし、その後も繰り返される愚かな「被害」のケースを山のように聞かされる中で、世の関心はずいぶん薄れてしまった。
 詐欺という行為は、もう少し頭を使ってストーリーを考え、スリルを感じながら実行する、“手作り感”のある犯罪ではなかったか? 機械的に大量の電話やメールを送り付け、例外的に生じた年寄りの“うっかりミス”に突けこむばかりで、なんら目新しさのないやり口は、およそつまらない―――。
 そんな風に感じていたのだが、今年1~2月にニュースとなった「ルフィ」騒動には、筆者の思い込みを覆す斬新さがあり、興味を持った。

▼今年の1月から2月にかけて、全国で発生している強盗事件が話題となり、中でも東京都狛江市での強盗事件が、90歳の老女が殴り殺されたこともあって、大きなニュースとなった。
 そしてそれらの強盗事件に関係するとみられる男たちが、フィリピンの入国管理施設に収容されていて、彼らは収容されている身でありながら、ケータイやらパソコンやらを施設内で自由に使え、強盗の指示もそこから出していたと、大きく報道された。強盗の指示役は「ルフィ」の名で呼ばれ、「ルフィ」もその入管施設の中の誰かだろう、いや、特定の誰かではなく、指示を出す時に指示者はそう名乗ったのだろうなどと、ワイドショーは賑やかだった。
 そのときニュースで解説された事件の構図は、捜査当局が流したものだったのだろうが、次のようなものだった。
 強盗を企画した人間は、情報を収集し、実行役を集め、指示を出すが、強盗行為は自分では行わない。強盗の実行役は、インターネットの「闇サイト」で1日百万円などと高額報酬を謳って集める。「闇サイト」に応募してきた人間は、本人情報だけでなく家族関係、親族関係までしっかり把握され、裏切れないように管理される。
 強盗を現場で実行する者は、単に指示されたように動くだけであり、強盗を主体的に行っているという意識が薄いから、罪の意識も薄いだろう。強盗を企画した人間にとって強盗の実行者たちは、自分と結びつくなんの関わりもない使い捨ての駒である。実行役に指示を与えることと、実行役から強奪した金品を受けとること。その接点に注意を集中し、無事に行えるなら、強盗はより安全な仕事となる。―――
 この組織モデルを、彼らは「オレオレ詐欺」から学んだのだろう。「オレオレ詐欺」では電話を掛ける「掛け子」と現金を受け取る「受け子」が、使い捨ての駒であるが、危険性が高く苦労の多い実行役を自分から切り離すという組織モデルを創り出すことにより、首謀者は「特殊詐欺」というジャンルを打ち立てたのだ。

▼日本の経済界でも組織モデル上の革新が、少しずつ見られるようになってきたように思う。
 「終身雇用」、「年功序列」、企業のメンバーとなり、その企業文化を身につけることが何よりも大切とされてきた日本の雇用慣行・雇用制度にとって、それが高度成長期に大成功した組織モデルであったからこそ、変えることは困難だった。しかしすべての企業活動がデジタル化をベースに行われる21世紀に、必要な能力を持った人材を雇用する上で、従来の日本の雇用慣行・雇用制度は大きな制約となる。年齢が若くても、外国人でも、求める能力を持った人材を高給で世界中から集める必要があるのに、それが出来ず、あいかわらず「年功序列」を基本とするようでは、世界で取り残されるばかりである。「年功」は21世紀の現代では、ただ新知識・新技術から遠いことを意味するばかりなのだ。
 バブル崩壊後、日本経済が一向に成長せず、世界で競争力を低下させていった背景には、「デフレ」のもたらした消極経営の要素が大きかったが、それだけでなく、「日本的経営」が21世紀の変化の激しい環境に適応できないという問題があったと、筆者は考える。日本においてIT化の進行が遅れた理由は、日本の経営組織モデルの革新が進まなかった理由と同根なのだ。

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