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三度目の殺人 [映画]

▼是枝裕和監督の映画『三度目の殺人』を観た。昨年観ようと思っていたのに、果たせないうちに上映が終わってしまい、今回やっとDVDを借りてきて観ることができた。
 筆者が新しい日本映画を観ることは、あまりない。新しいところでは、アニメ映画『この世界の片隅に』(監督:片渕須直、原作:こうの史代 2016年)や『シン・ゴジラ』(監督:庵野秀明 2016年)、『海街diary』(監督:是枝裕和 2015年)、『百円の恋』(監督:武正晴 2014年)ぐらいなものだろう。世評が高いから一応観ておこうかというぐらいの理由であり、それぞれ十分楽しめる出来ではあったが、観客を魅了して離さないというところまでは行かない、という感想だった。
 この正月に、『そして父になる』(2013年:是枝裕和監督)のDVDを観る機会があった。病院で新生児の取り換え事件があり、数年後にその事実が明らかになる。事実を知らされた二つの家族の戸惑いや苦悩を静かに綴る画面には、観る者を捉えて離さない力があった。傑作だった。是枝の最新作をぜひ観なくてはと思ったのは、それからである。

▼『三度目の殺人』は殺人の現場から始まる。夜の河川敷で前を歩く男を後ろの男がスパナのようなもので殴り倒し、死体にガソリンをかけて火をつける。燃え上がる炎に、血潮を浴びた男の顔が浮かび上がる。男はゆっくりと、顔に付いた血を手の甲でぬぐう。―――
 拘置所に向かうタクシーに、弁護士が3人乗っている。主人公の弁護士・重盛(福山雅治)とその同僚の摂津(吉田鋼太郎)、それから若手の弁護士・川島(満島真之介)である。3人の会話から、事件の概要が説明される。
 容疑者は30年前にも北海道で殺人を犯し、服役し、仮釈放で出所してから東京の食品加工会社で働いていた。その会社を解雇され、社長を河川敷で殺したとして起訴されたのである。はじめは摂津が一人で弁護を担当していたのだが、容疑者の言うことが会うたびにころころ変わり、手に負えなくなって同じ事務所の重盛が担当することになった。
 3人で面会した容疑者・三隅高司(役所広司)は、なぜ殺したのかという重盛の質問に、「ギャンブルするお金が欲しくて……」「マチ金から借りた金が焦げ付いて……」、などと答える。
 重盛は、すらすらと自分の犯行を認め説明する容疑者の態度に、引っかかるものを感じたが、情状酌量で死刑判決を回避するという方針を早々に決める。北海道に住む容疑者の娘に会う必要があるかどうか、事務所で議論が出るが、そこまでする必要はないと重盛は言う。「容疑者への理解とか共感とか、弁護するのにいらないよ。友達になるわけじゃないんだから。」
 
 重盛は河川敷の現場を見に行く。彼が現場に着く前に、立ち去る脚の悪い高校生ぐらいの少女を見かける。現場には死体の焼け跡が十字架の形に残っていた。
 タクシー会社に行き、事件の夜、三隅を乗せた車の車内の様子を映した録画を見せてもらう。三隅が車の窓を開ける様子が写る映像から、重盛は財布がガソリン臭かったからではないかと推理し、そこから三隅が財布を盗んだのは死体にガソリンをかけたあとだったこと、つまり犯罪事実を「強盗殺人」ではなく、「殺人とその後の窃盗」とすることで減刑を狙う方針を固める。
 そのあと重盛は被害者宅を訪れ、妻に三隅の謝罪の手紙を手渡す。そこで、脚の悪い少女が被害者の娘であることを知る。

▼週刊誌に、「奥さんに頼まれて保険金目当てに殺した」という三隅の「独占告白」の記事が大きく載る。重盛は三隅に面会し、訊く。  
―――どうして最初に行ってくれなかったんですか?
―――どうしてって言われても……
―――記者が言い出したんじゃないの?この話。
―――どうだったかな……
―――どうやって頼まれたんですか
―――メールで
―――犯行後、奥さんと連絡とりました?
―――はい、私のことは黙っていてくれ、悪いようにはしないからって

 事務所で若い弁護士が、「本当はどっちなんだろう、怨恨と保険金と」と疑問を出すと、重盛は、「どっちが本当かなんてわからない。だったら依頼人の利益になる方をとればよい」と言う。

 裁判官と検事と弁護士が、法廷の進め方について打ち合わせをした後、女性の担当検事が重盛たちに言う。
―――あなたたちはとにかく減刑ありきなんだから……
―――弁護士ですから……
―――あなたのような弁護士が犯罪者が罪と向き合うのを邪魔するのよね
―――え?罪と向き合うってどういうことですか
―――真実から目を背けないということ
―――真実? と重盛は笑う。
 摂津弁護士が、まあまあその辺で、お互い立場違うから、と間に入る。

▼重盛は、三隅の借りていた部屋を大家に見せてもらう。部屋はきちんと片付けられていた。重盛は被害者の妻の写真を見せ、この人が訪ねてこなかったかと聞くが、大家は否定し、たまに足の悪い高校生ぐらいの娘が来ていたと言った。どんな娘でしたか、と聞くと、明るい笑い声が聞こえた、と言う。空の大きな鳥かごがあり、重盛が聞くと、鳥が死んだので庭先に埋めたいと三隅から言われたと、大家は答えた。鳥の墓は、十字架の形に小石が置かれていた。

 3回目の面会で重盛は、鳥のことを聞いた。三隅は、カナリアを飼っていたが、病気で死んでしまったと答えた。重盛は、「お墓、掘ってみたんです。5羽いっぺんに病気にならないでしょう」と言い、通常より十日も早く家賃を払っていたことについて、説明を求める。
 三隅は重盛に、手を見せてくださいと言った。二人を隔てる透明な仕切りの板に三隅が手のひらを当て、重盛にその手のひらを合わせるように言った。「私、直接話をするより、この方がその人のことが分かるんです。当ててみましょうか、重盛さんが今何を考えているか」。重盛が黙っていると、三隅は突然、「おいくつになったんですか、娘さん」と言って重盛を驚かせた。

▼重盛は、学校から帰る足の悪い被害者の娘・咲江のあとをつけ、図書館やスーパーマーケットでの挙動を見てから事務所に帰った。事務所には、元裁判官である重盛の父が30年前の三隅の殺人事件の記録を持って来ていた。父は偶然、30年前の事件を裁いた裁判官だったのだ。
 夜、重盛の家に泊まった父は、事件の記録を読む息子に言う。
―――ただ殺したかったんだよ、あいつは。いるんだよそういうけだものみたいな人間が。
―――このときの判決は随分情状酌量しているじゃないですか
―――30年前だろ。犯罪は社会から生まれるという考え方が世の中にまだあったからな。あの時の温情判決の結果、また人が死ぬことになった。反省してますよ。いいか、殺す奴と殺さない奴の間には深い溝がある。それを超えられるかどうかは生まれた時から決まっている。
―――随分ゴーマンな言い方ですね
―――あんな奴、理解しようとするだけ無駄だぞ
―――無駄って言い方はないでしょう
―――親子でもわからないのに、まして他人のことなんか……

 重盛は雪の積もる北海道・留萌に、若い弁護士と一緒に調査にくる行く。「昭和61年、借金取り二人を殺し、金を奪って現住建造物放火。よく死刑にならなかったものですね」と、若手弁護士が言う。三隅の娘をまず探すが、見つけることはできない。
 重盛たちは、三隅を逮捕した刑事の家を訪れ、当時の話を聞いた。元刑事は、炭坑が閉鎖になってから、町にはやくざから金を借りる連中がたくさんいたと話し、「三隅の動機はよくわからない。個人の恨みや憎しみはなかったようだ。それが逆に不気味というか……なんだか空っぽの器のような……」と語った。

(つづく)

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サンフランシスコ人

4/7『三度目の殺人』......サンフランシスコで上映...

http://www.sffilm.org/2018-sffilm-festival/festival-calendar/the-third-murder
by サンフランシスコ人 (2018-04-04 08:11) 

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