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今年も12月になった2 [思うこと]

▼戦争に関する「国際法」は、戦争や闘争の主体について現実を踏まえて対象を拡大しただけでなく、毒ガスや細菌などの生物・化学兵器を禁止したり、捕虜や傷病者、一般住民の保護について取り決めたりしている。1949年にジュネーブで締結された4条約は、捕虜や傷病者、一般住民を保護する内容の条約だが、それらはさらに検討が重ねられ、補完するものとして1977年に二つの「ジュネーブ条約に追加される議定書」が採択された。
 この議定書が、一般住民(平和的住民)の保護をどのように規定しているかを見てみよう。
 「平和的住民及び非軍事物に対する尊重及び保護を確保するために、紛争当事者は、常に、平和的住民と戦闘員とを、また、非軍事物と軍事目標を区別しなければならず、従ってその行動を軍事目標に対してのみ向けなければならない。」(第一議定書第48条)
 「非軍事物」とは、「民用物」と訳している条約集もあるが、軍事目標でないすべての物を言い、攻撃は軍事目標にきびしく限定されなければならない。礼拝所や学校、家屋のような通常平和的な目的に使われる物は、明らかに軍事行動に寄与するために用いられている証拠がない場合は、「非軍事物」と推定されなければならない。
 「無差別攻撃」は許されない。無差別攻撃とは「特定の軍事目標に向けられていない攻撃」や、特定の軍事目標に限定することのできない戦闘の方法・手段を用いる攻撃である。そして特に二つの類型を挙げて、それは無差別攻撃とみなされると警告している。
 一つは、都市などの一般住民や非軍事物が集中している地域に多数の軍事目標がある場合で、相互に明確に分離されるものを単一の軍事目標とみなして砲撃や爆撃を加えること。
 もう一つは、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益と比べ、巻き添えにする一般住民の死亡や傷害、非軍事物の損害が、過度に引き起こされると予想される攻撃である。(第一議定書第51条)
 戦争に関する国際法を思い起こすことは、法の「無力」に失望することになるかもしれない。しかしそれは「文明」の証しであり、完全なニヒリストであっても言葉の上ではそれを尊重しているかのように振舞わざるを得ないところに、法の存在理由を見ることができる。

▼12月9日、イスラエル軍のガザ地区攻撃により「少なめに見積もって7千人以上のハマス戦闘員を殺害した」と、イスラエル国家安全保障顧問は地元TVのインタビューで述べたという。
 しかしガザの保健当局の12月10日の発表によれば、10月7日の戦闘開始以後の一般住民の死者は1万8千人にのぼり、負傷者は5万1300人だという。その多くは連日連夜行われているイスラエル軍の空爆によるものだろうが、それは戦闘開始後の合計で2万2千箇所以上にのぼるという。ガザ地区の広さは東京23区の6割程度であるから、空爆のすさまじさはわれわれの想像をはるかに超えると言わなければならない。
 筆者はイスラエル軍が、一般住民と戦闘員を区別しなかったり、民用物を意図的に軍事目標にしているとは考えない。しかし地下トンネルが縦横に、300~500㎞も掘りめぐらされているといわれるガザ地区で、ハマスの戦闘員を殺戮するために「無差別攻撃」を行っていることは確かであり、それが「国際法」の求める一般住民の保護に違背し、住民の殺戮と都市や住居の破壊を大規模に実行するものであることは、明らかである。
 ハマスの10月7日の越境攻撃によるイスラエル国民の殺害と人質の拉致は、許されぬ行為であり、テロルとして非難されなければならない。だからその後イスラエルが、人質の解放とハマスの壊滅を求めてガザ地区を攻撃したことも、一定程度は許されるだろう。だが、「一定程度」を超えて攻撃を続け、ガザの一般住民の被害を極度に拡大し、それを「自衛のため」と称することは許されず、ハマスのテロルと同様に強く非難されなければならない。
 どちらが正しいかではない。どちらも正しく、そしてどちらも許されぬ行為をしていると筆者は考える。
 なぜハマスが「正しい」のか? 彼らがパレスチナの歴史と現状を見て覚えるイスラエルへの敵愾心は、十分に根拠があるからだ。彼らにとってイスラエルへのテロルは、巨大な不正義に対する絶望的な抵抗であり、世界の無関心に対する抗議であるだろう。
 一方イスラエルは、パレスチナの地で「建国」し、周囲のアラブ諸国の敵意に囲まれながら75年間営々と国づくりに励んできた。彼らにとってイスラエル国家の存続は至高の価値であり、それを脅かす者と戦い打倒することはすべてに優先する課題である。

▼世の中どうあるべきかを考え、それが正しい理由を論証できたとして、その通り実現することはまずありえない。パレスチナの問題について、イスラエルとパレスチナの二国家共存しか「解決」法はないと多くの論者が主張し、筆者もそう考え、国連の決議もそれを認めている。しかし問題は一向に解決に向かわず、今日の事態を迎えたのである。
 ハマスは2017年にそれまでの姿勢を転換して綱領を改訂し、イスラエルの建国を非合法としながらも、1967年の第三次中東戦争以前のイスラエルとパレスチナの人々の間の境界線を受け入れる姿勢を示した。それはハマスが国際的孤立を避けたいという思惑から出たものだろうが、問題の解決へ向かう一つのきっかけになりうるポイントだったように見える。
 問題が解決に向かわない原因は、より多くイスラエル側に求められるように思う。イスラエルがパレスチナ国家が造られることを歓迎せず、米国がイスラエルの姿勢と行動を支持し続けているからである。
 10月7日のハマスの越境攻撃に始まる「戦争」について、11月下旬の休戦期間中にパレスチナ民間調査研究機関が実施した、ガザと西岸地区での調査結果が報じられていた。(毎日新聞12/14)。それによると、ハマスによる越境攻撃を正しいと回答した者は、ガザ地区で57%、西岸地区で82%であり、ハマスの支持率は9月の前回調査に比べ、ガザ地区で4%増の42%、西岸地区では32ポイント増の44%で、いずれも西岸地区を治める穏健派組織ファタハを上回ったという。「戦後のガザ地区は誰に統治してほしいか」という質問では、「ハマス」と答えた者が全体の60%(ガザ地区38%、西岸地区75%)を占めた。

(つづく)

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