SSブログ

今年も12月になった3 [思うこと]

▼前回、10月7日の「開戦」以降、イスラエルの攻撃によって大きな被害を受けているにもかかわらず、ハマスを支持するパレスチナ人が増えていることを見た。それではイスラエルの世論はどうなっているのか。
 シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」は12月11日~13日に、ユダヤ系503人とアラブ系101人の男女にインタビュー形式で尋ねた調査結果を、19日に発表した。イスラエル国内のアラブ系住民は約2割と言われるから、調査は人種別の人口比を考慮して行われたと言える。
 「軍事計画を立てる際に、どの程度ガザの人たちの苦しみを考慮するべきか」という設問に対し、ユダヤ系は「ほとんど考えるべきではない」「あまり考えるべきではない」が合わせて81%を占めたという。一方アラブ系では、「大いに考えるべきだ」「かなり考えるべきだ」が、計83%だった。
 またユダヤ系の回答には政治的立場によって違いがあり、右派の89%、中道の77.5%、左派の53%が、それぞれ「考えるべきではない」と答えた、という。
 「戦争」が始まって以来、イスラエル軍の空爆によって瓦礫の山と化したガザの街や、生き埋めになって救助される人々、泣き叫ぶ子供たちといった戦争の様子は、映像によって世界に届けられている。ガザの保健当局の発表によれば、死者数は、12月19日時点で2万人を超えた。「即時休戦」「即時停戦」を求める声が世界に広がっているのだが、イスラエルのユダヤ系の国民は、「ガザの人々の苦しみなど考慮する必要はない」と言うのだ。
 彼らのそうした考えや感情の傾向は、「開戦」以降に始まったものではなく、近年徐々に強まってきたものと見ることができ、それはイスラエル議会の構成にも反映されている。

▼イスラエルの議会は、独裁者が出ることを防ぐという理由から、完全比例代表制を採用している。2019~2022年に5回もの総選挙を行っているが、全部で120の議席の過半数を取る政党が現れず、連立の組み方をめぐって争いや駆け引きが続いているからである。
 2022年末の選挙でつくられた政権の与党は、リクード(右派)32、宗教シオニズム(極右)14、シャス党(ユダヤ教超正統派)11、ユダヤの力(ユダヤ教超正統派)7、の64議席であり、過半数(61)をわずかに上回る状態だった。開戦後の10月12日に国民団結党(中道右派)12が新たに与党に加わり、ようやく安定勢力を獲得したが、極右やユダヤ教超正統派が休戦や停戦に不満な場合、政権離脱をちらつかせることで戦争の行方を左右する力を握っている。
 現在の政権では、「宗教シオニズム」党の党首が「財務相兼第二国防相」に就き、「ユダヤの力」の党首が「国家安全保障相」に就いている。「財務相兼第二国防相」というのは聞きなれない面妖な肩書だが、国防相が占領地行政を管轄するということを知れば、事態は容易に理解できる。つまり占領地である「ヨルダン川西岸地区」に入植地を増やしていくという政策を推進するポストなのである。パレスチナ人の抵抗は当然発生するが、治安を維持するのは「国家安全保障相」の役割である。
 極右やユダヤ教超正統派は、パレスチナ全土がユダヤの民に神が「約束した土地」であり、入植地を広げることは当然と考えていて、ネタニヤフは政権を取るために彼らの希望を入れ、希望するポストを用意したというわけだ。(以上はBSフジの「プライムニュース」に拠る。)
 西岸地区では10月7日の「戦争」勃発以降、入植者によるパレスチナ人襲撃が増大し、200人以上が殺され、イスラエルの国防相が入植者による暴力の急増を非難する(12/5)事態となっている。
 
▼「ガザ 素顔の日常」という映画を見た。2019年につくられた記録映画で、ガザに暮らす人々の日常を撮ったものである。
 映画は、海辺でサーフィンを楽しむ若者たちの光景から始まる。どこの国でも見られる普通の風景である。次に、漁船に乗る少年にカメラが向けられる。少年は、いまに大きな漁船を買って、兄弟と漁に出たいと夢を語る。
 ガザでは今でも妻を4人まで持てるらしく、妻が3人で子供が40人という初老の漁師も登場する。子供の一人は、兄弟がたくさんいて大家族は楽しいと言う。陽気な売店の店主やタクシーの運転手なども登場する。
 ガザは一見、他の中東の街と変わりのない土地のように見える。しかし実態は、イスラエルの造った巨大な壁に囲まれ、イスラエルによって経済的に封鎖された「天井なき牢獄」であることが、少しずつ示されていく。
 ガザ地区の西側は南北40㎞ほどの海岸線だが、船は海岸線から遠くまで出ることはできない。漁業ができる領域が定められていて、そこから外に出ようとするとイスラエル海軍から銃撃されるのだ。
2007年にガザをハマスが実効支配するようになってから、イスラエルは地区を封鎖し、物資も人の移動も制限している。若者たちに仕事はなく、希望を実現することは難しい。
 映画は後半、砲撃で廃墟となったたくさんの鉄筋造の建物を映し出し、タイヤを燃やし、イスラエル兵に石を投げるパレスチナの子供たちにカメラを向ける。イスラエル軍はこれに対して、実弾を打ち返す。
 2014年と2018年に、パレスチナの住民とイスラエル軍の衝突があり、数十名の死者が出、多くの学校や病院、家屋、発電所などが破壊された。また同じことが起きるのではないかと恐れている、と老女が語り、「私たちはただ生きたいのです」という言葉が、画面に残る。
 
▼ガッサン・カナファーニーの中・短編小説を読んだことがある。(『太陽の男たち/ハイファに戻って』) パレスチナを追われ、中東の各地で暮らす人々の日常生活をたんたんと描いているのだが、登場人物たちの背後に読み手がパレスチナの歴史理解を挿入することで、場面がにわかに活性化される、そういう小説だった。
 (カナファーニーはパレスチナの中流家庭に生まれ、イスラエル建国のときは12歳だった。難民の一人としてシリアの山村に逃れ、やがてダマスカスに移った。新聞の校正係や難民救済機関の学校の教員などをしたのち、ベイルートの新聞で主幹として健筆をふるい、PFLPの公式スポークスマンとして活動した。その発言は世界のジャーナリストに注目され、イスラエル側には脅威となり、1972年、車に仕掛けられたダイナマイトによって、彼は車ごと吹き飛ばされた。享年36歳。)

▼今回の「パレスチナの戦争」はどのようにして終わるのだろうか。緊急に必要とされる水や食糧や医薬品は、いつ人々の手に届くのか、イスラエル軍が徹底的に破壊した家屋や病院、学校や多くのインフラ施設は、どのようにして再建されるのだろうか。
 戦闘はいつかは止む。ハマスは「開戦」後2か月半を、よく戦っていると言えるが、それでも組織的抵抗は近いうちに終わるのではないか。
 だがそのあと、イスラエルはどうするのか。彼らは明確な「出口戦略」を持たないまま、ハマスの「壊滅」に向けて突き進んできたが、パレスチナ人の存在を無視しようとする彼らの「思想」が、国際社会に受け入れられるとは思えない。入植地をめぐるパレスチナ人民との対立は、深刻な国内対立となってイスラエルの政治を混乱させるかもしれない。
 当面は絶望しか見えない「パレスチナ問題」だが、イスラエル政治の混乱の可能性にわずかな「希望」を見出したいという筆者の思いは、姑息に過ぎるだろうか。

 (おわり)

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

今年も12月になった2PERFECT DAYS ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。