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近ごろ思うこと1 [思うこと]

▼「新型コロナ」の感染症法上の位置づけが、今年の5月に2類から5類に変更された。そのこともあって人々の関心はこの問題から急速に離れ、外国人観光客のインバウンドの話やバスケ、サッカー、ラグビーなど、日本選手の活躍に向いている。しかし日本の「新型コロナ」の感染者は減っているわけではなく、9月初めには5類移行後はじめて10万人を超え、3週連続で増え続けているという。
 筆者はもともと「新型コロナ」問題に関心がなく、うっとうしいと感じ、できるだけ無視して暮らしてきたから、日本社会の変化は歓迎すべきことなのだが、それでもあまりに簡単に次の話題に移るというのはどうなのか、違和感がないわけではない。
 「新型コロナ」は、「自然免疫」が広がれば自然に終息すると聞いたように思うのだが、年寄りがワクチンを5回も6回も打ち、これだけ感染者数累計が増えても、なかなか収まらないのはどういうわけか? ウイルスが変異するから収まらないのだろうか?
 日本では、ヨーロッパや米国と違い、死者数がケタ違いに少なく、「ファクターX」があるのではないかという議論があったが、どうなったのか?
 日本では「新型コロナ」について「飛沫感染」と「接触感染」で感染するとされ、飲食店では透明なアクリル板を設置したり、テーブルや手指の消毒などに精を出した。しかしその後、「エアロゾル感染」だということが言われ、換気やマスクは大事だが手指の消毒はあまり意味がないという話も、耳にしたことがある。本当のところはどうなのか?―――
 そういった議論や疑問がまるでなかったかのように、いそいそと新しい話題に飛びつくのはいかがなものかと、筆者は鬱陶しさの消えたことを歓迎する半面、いぶかしく思いもする。

▼筆者は、福島第一原発の処理水排出の問題についても、関心を持っていなかった。(病気や健康に関心を向けないことが自分の「健康法」だと考えているわけではなく、不精なだけなのだが、筆者は昔から放射能汚染の問題は政府と専門家に判断を任せ、信用してきたのである。)
 2年前、日本政府はALPS処理水を海洋放出する計画について、IAEA(国際原子力機関)に検証を依頼していた。IAEAのグロッシ事務局長は7月4日、日本政府の依頼を受けて2年間、放出計画の安全性を検証してきたが、ALPS処理水の海洋放出計画は「国際的な安全基準に整合的」であり、これが「人および環境に与える放射線の影響は無視できる(negligible)」との報告書を公表した。また、福島第一原発内にIAEAが事務所を設けて、処理水の放出中と放出後、モニタリングを継続することを併せて発表した。
 これに対し、中国側の反応は次のようなものだった。8月22日に日本政府が処理水の海洋放出を正式に決定すると、中国政府の報道官は、「世界の海と人類の健康へのリスクを無視し、汚染水の海洋放出を無理やり進めるのは、きわめて身勝手で無責任だ」と非難した。そして2日後の8月24日に海洋放出が実行されると、「リスクを全世界に負わせ、人類の子孫に傷を残し、生態環境を破壊し、全世界の海を汚す行為だ」と、大袈裟な表現で非難し、日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表した。これは日本政府の想定を超える反応だった。
 岸田首相は、「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう、中国政府に強く働きかける」と語り、中国側に冷静な対応を求めたという。
 9月12日、中国の報道官はIAEAの批判に踏み込み、その検査結果を正当と認めないと発言している。処理水中の放射性物質が日本の制限値未満だったと説明したことは、「加盟国の十分な議論を経ずに行われており、独立性に欠ける」。「隣国などの利害関係者が実質的に参加する長期的で有効な国際モニタリングの仕組みを、国際社会は求めている」。
 だが、モニタリング結果を分析・評価するIAEAの国際的な枠組みへ、参加を拒否したのは中国自身だったのではなかったか?

▼中国の独りよがりの反撥の問題はあとで取り上げるとして、放射性物質の安全性や安全基準という専門的で難解なことがらの真偽を、シロウトはどのように判断すればよいのだろうか。
 IAEAという国際機関(中国も分担金を負担している)の専門家たちが、2年間かけて福島第一原発の汚染水処理の仕組みを調査し、放出前に検査した処理水中の放射性物質が、各種の許容量の基準を下回っているという結論を出したという事実は、まず尊重するべきだろう。そして、当該処理水について何ひとつ具体的なデータを持たないにもかかわらず、「人類の子孫に傷を残し、生態環境を破壊し、全世界の海を汚す」などと大袈裟に騒ぎまわるだけの発言は、「安全性」に関しては無意味、無内容なものとしてゴミ箱に投げ込んで差し支えない。
 判断が難しいのは、専門的知見に見えるもっともらしい発言だ。たとえば、「日本政府と東電は、トリチウムの問題ばかりを強調することで、ALPS処理水中に含まれるトリチウム以外の有害な放射性同位体から出る放射能から、眼を逸らそうとしている」(環境保護団体「グリンピース」の原子力のシニア・スペシャリスト)などの発言は、事情を詳しく知らなければ真偽を判断できないし、同趣旨のことは中国政府関係者もしきりに言っている。
 さらには「ALPSを通しても放射性物質の約6割は除去されず海に放出される」とか、「ALPS処理ではトリチウムを除去できないだけでなく、そのほかにセシウム137、セシウム135、ストロンチウム90,ヨウ素131、ヨウ素129、など12の核種も除去できない。そのうち11種類は、通常の原発排水に含まれないが、原発事故で核燃料デブリに直接触れた汚染水に含まれるものだ」と、もっともらしく書く解説記事もある。
 ALPS処理でトリチウムが除去できないことは関係者の共通認識だが、その他の放射性物質は除去できるのか、できないのか。専門家には明らかな誤りであっても、堂々と断定されると、シロウトには判断が難しい。
 政府と東電が発表している第一原発の汚染水の海洋放出の計画は、ALPS(多核種除去設備)でまずトリチウム以外の放射性物質を除去し、その濃度を基準値未満にする。その上で(除去できない)トリチウムを国の基準の40分の1未満になるように海水で薄め、海底トンネルを通して沖合1キロメートルへ放出する。完了するまで数十年かかる、というものだ。
 筆者は、処理水の放出開始後、グロッシ事務局長がフランス通信社(AFP)のインタビュー(8/29)で、次のように発言していることに注目したい。「これまで確認したかぎりでは、初期に放出された処理水に有害な放射性核種は一切含まれていなかった。第一段階は想定通りだが、最後の一滴が放出されるまでモニタリングを続ける」。
 つまり、「ALPS処理では放射性物質の約6割は除去されず海に放出される」のではなく、有害な放射性核種は「一切含まれていない」ところまで除去処理されていた点を、彼の発言によって確認するのである。
 シロウトが難解な専門分野の問題を考えなければならないとき、信頼できる「人」に着目し、その発言を軸に問題を判断するのが有効な方法だろう。処理水の海洋放出問題を考えるとき、2年間この問題に関わってきたIAEAの事務局長の発言を信用することは、迷路に足を踏み込まないために、また「思考の経済」の上でも、大事なことだと思う。

(つづく)

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