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近ごろ思うこと2 [思うこと]

▼もう一つ、筆者のような放射能問題のシロウトでも「なるほど」と思った解説があった。内閣府の「廃炉・汚染水対策チーム事務局」のプロジェクト・アドバイザーだった三木雄信という人が、ダイヤモンド・オンラインDIAMOND online(9/9)に載せた文章である。(専門的な分野の事象にシロウトが見当をつける上で、「なるほど」と思う専門家に出逢うことほど力になることはない。)
 三木雄信はそこで3点の提案をしている。

 第一に、ALPS処理水を海洋放出する際の基準をシンプルに設定し、処理水を継続的に測定して基準を厳密に守っていることを、国内外にわかりやすく情報提供する必要性である。
 現在も、放出基準をシンプルに設定しているが、これは大変効果的であると三木は評価し、東京電力のサイトを紹介する。そこではALPS処理水を測定した結果、放出基準を満足していることが、二つの簡単な指標で示されている。
 一つはトリチウムの含有量であり、1リットル当り何ベクレルの濃度であったか、生の数値で示し、基準以下であることを確認している。
 もう一つはトリチウム以外の放射性物質である。炭素14からプルトニウム241まで、29の「核種」を測定した生データが一覧表で掲載されているが、それを生データのまま評価するのは、専門家でなければ難しいだろうと三木は言い、「総和」という形に直して規制基準以下であることが示される。(筆者は「総和」に直す手法を理解できなかったが、29の核種をきちんと測定し、判定していることはよく分かった。)
 三木は言う。「……この手法は大変効果的だったと思います。しかし、結果的にこのようなシンプルさが“あだ”となった面も否めません」。―――
 (「結果的にこのようなシンプルさが“あだ”となった面も」あるというのは、「トリチウムの問題ばかりを強調することで、トリチウム以外の有害な放射性同位体から出る放射能から、眼を逸らそうとしている」という悪意の言説に、つけ入る隙を与えたという意味だろう。)
 そして現在の日本の情報提供には、データはネットですべて公開されているが、あちこちに散在し、参照するのに苦労するという弱点があることも指摘する。
 「中国の反撥が継続し、フェイク動画が出回るような事態に対抗するには、情報力の強化が必要です。……無用なデマをなくすためにも、早急に、散在しているデータを分かりやすく(例えばグラフィカルにするなど)、放出工程の流れに沿ってリアルタイムかつ一覧的に見ることができるサイトを構築し、国内外への情報発信を強化すべきです。……」

 三木の提案の第二は、日本政府と東電がIAEAと共同で継続していく予定のモニタリング体制の中に、中国の参加を呼びかけることである。「中国が、IAEA主導のモニタリングプロジェクトへの参加を断ることは、〈中国国民の健康を守る〉という建前上、難しいのではないかと思います。」
 三木の提案の第三は、〈福島第一原発の廃炉〉というプロジェクトの最終ゴールまでのロードマップを、あらためて見直すことである。汚染水が大量に発生するのは、原子炉建屋に地下水が流入するからだが、地下水流入を止める工法の検討も進んでおり、汚染水をつくらないための本質的な解決策に挑戦しなければならない。また溶解した燃料棒デブリを取り出し、回収するという廃炉のための本丸にあたる作業も、開始しなければならない。これらのロードマップを積極的に見直すことこそ、より本質的な問題の解決だと三木は言う。

▼中国政府はどういう計算に基づくものか不明だが、日本の処理水の海洋放出に反発する方針を1年以上前に決め、中国国民に放射能汚染への恐怖心を広めていったようである。
 8月24日に海洋放出が行われると、中国のSNSは連日この件一色に染まり、人びとの最大の関心事となったという。王青(日中福祉プランニング代表)という人のレポートが、ダイヤモンド・オンライン(8/31)に載っていて、中国民衆の大騒ぎを伝えているので、紹介したい。
 日本の処理水海洋放出と日本からの水産物の全面的禁輸措置について知ると、中国人の間に動揺や不安が広がった。スーパーで人びとが塩を奪い合い、ケンカをしている動画がネット上で拡散した。SNSでは日本を批判する動画が出回り、日本を強くなじるコメントが嵐のように巻き起こった。「それらの多くは、冷静さを失い、声高に過激な言葉を放つ、見るに堪えない内容」だという。
 例えばある動画は、若い女性がひたすら泣きわめくというもの。「日本は昔、わが国を侵略した。今は海洋に毒水を流すなんて、許せない。どこまで悪いことをするの?」と叫び、泣く。王青のレポートには、若い女が目に手をやって泣いている画像が載っているが、これには「本当に彼ら(日本)を殺したいです」という字幕が付いている。
 また、別の動画では、小学生の男の子が世界地図を広げて日本の部分をハサミで切り取る。隣にいる親が、よくやった!と拍手を送る。
 さまざまな社会問題に発言し、数百万人のフォロワーを持つインフルエンサーたちの多くも、今回の日本の処理水放出を、環境を破壊する無責任な行為として批判する。そのコメント欄には、「その通りだ!」、「もう日本に旅行しない」、「日本製品のボイコット運動を起こす」といった書き込みが溢れている。
 「反対しているのは中国だけだ」という投稿も、たまにはあるらしいのだが、それに対して「著名な元ジャーナリスト」が、「一番反対しているのは日本人自身だ」と反論したという。首相官邸前で開かれた海洋放出反対の集会や、いわき市で開かれた野党と労働組合主導の抗議集会の動画が中国では大量に流されていて、それらは数百人規模のわりあい小規模の集会なのだが、それを観た中国人は日本人全員が反対していると受け取ってしまうらしい。
 このような異様な盛り上がりを背景に考えるなら、現地の日本人学校に石や卵が投げつけられたり、日本へ嫌がらせの電話が多数かけられたりしたのも、少しも不思議ではないだろう。

▼王青は、中国人が「情報弱者」と「情報強者」に分断されている事実を指摘する。圧倒的多数の一般の人びとの情報取得は、国内のメディアやSNSに限られている。だから今回放出された処理水は汚染物質が除去されていて、トリチウムもごく微量で環境にほとんど影響がないことを知らないし、自国を含む世界の原発が処理水を海洋に放出していることも知らない。
 しかし外国語ができる人や、世界のニュースに触れる機会のある人は情報強者であり、彼らは日本に来て、海の幸を口いっぱいに頬張って堪能している。
 国外にいる中国人のコミュニティでは、最近次のような書き込みが流行っているという。
 「貧乏人は日本をののしり、抗議する。食塩を買いだめし、海産物を食べないようにする。金持ちは移民するために国内の財産処理に没頭する。日本に行き、海鮮料理に舌鼓を打つ。さて、あなたはどっちだ?」

(つづく)

【来週は奈良を旅行するため、ブログを1週間お休みします。】

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