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予約サイトから「日本」を思う [思うこと]

▼熊本・阿蘇・由布院・別府の旅行を計画するにあたり、三つのホテル予約サイトを使ってみた。「JTB」と「楽天トラベル」と「じゃらんネット」((株)リクルート)である。「JTB」と「楽天トラベル」は10年近く前に使ったことがあり、「じゃらんネット」は初めてである。
 同じホテル・旅館であっても、サイトにより値段やキャンセルの場合の違約金の条件が少し違うようであり、また同じホテルでも、部屋の違いや特典の抱き合わせ方の違いにより、いろいろなプランが用意されているようだった。だがどのサイトも、利用者に会員登録させ、ポイントを付与するなどして囲い込もうという姿勢は、同じように見えた。だがこれがややもすると予約サイトの利用者に、無駄な苦労を強いる原因となる。
 筆者の場合、「楽天トラベル」は「楽天カード」が手元にあり、カードを日常的に使用しているので、問題なく予約手続きを終わらせることができた。しかし「JTB」の場合、自分の「会員ID」もパスワードもまるで記憶にない。しかしそれを記入しなければ、予約手続きに入れない。
 「会員ID」の記入箇所の下に、「IDを忘れた方はこちらへ」と書かれた箇所があり、そこをクリックすると登録したメルアドにIDが送られてくる仕組みになっていた。これでなんとかIDは再通知された。
 次に「パスワードを忘れた方はこちらへ」をクリックすると、筆者のID、メルアド、姓名、連絡先電話番号を書き込むフォームが現われた。記入して送信ボタンを押すと、パスワードの再設定ができる仕組みらしいのだが、「エラーがあります」の表示が出、点検して修正してもエラー表示は一向に消えなかった。(筆者のPCの機嫌がたまたま悪かったのかもしれない。)
 「会員ID」やパスワードを使わずに予約申し込みをすればいいのでは?と考えついて、「会員登録せずに予約」というボタンを押した。開いた画面に筆者のメルアドを入力して送信すると、「本人確認認証キー」が通知され、その「認証キー」とともに「お客様情報」を入力することで、やっと予約手続きに入れる仕組みらしい。だが筆者の場合、予約手続きに進めなかった。メルアドを送信したら、次のメールが届いたからである。
 「お客様のメールアドレスは既に登録されています。会員情報統合手続きをこちらのページからお願いします。」
 予約の入り口で1時間近く時間を浪費させられた揚げ句、結局「JTB」の予約サイト利用をあきらめざるを得なかった。呆れたというか、日本の企業はダメだなあ、というあきらめとも怒りともつかぬ感情が湧き、苦笑せざるを得なかった。

▼筆者はこれまで何度かヨーロッパを旅行しているが、インターネット時代になってからはBooking.com(ブッキング・ドットコム)というホテルの予約サイトを利用している。ネット時代以前は実際に街を歩き、宿屋を見てから飛び込みで決めていたのだが、予約サイトを利用すればきわめて容易に、たくさんの選択肢の中から自分の求めるホテルを選び出し、予約することが可能になったのである。
 ホテル選びの条件は、一般に値段、ロケーション、ホテルの施設や設備の質、環境、従業員のホスピタリティといったところだろう。Booking.comは、それらを分かりやすく整理された情報として提供することに成功している。
 まず都市名で検索すると、Booking.comに登録しているその都市のホテルのリストが1部屋1泊の最低価格とともに写真付きで表示される。(値段を見れば、ホテルのグレードの見当がつく。)またその都市の地図を開けば、登録されているホテルの位置が最低価格とともに表示されている。値段とロケーションから候補をいくつか選んだら、次にそのホテルのページを開いて写真を見たり、利用した客の評価を読んで比較し、具体的な値段のページを開いて申し込むのである。
 客の評価は、清潔さ、快適さ、ロケーション、スタッフなど7つの項目を点数で評価したもので、評価者の人数とともに表示されている。筆者のこれまでの経験では、この評価の点数は十分信用でき、値段やロケーションとともにホテル選びに役立った。
 要するに、Booking.comの予約サイトは、その仕組みがシンプルで使いやすく、多くのホテルが登録し、多くの利用者、多くの評価者が関わることで、その情報の信用度もおのずから高くなっているということが言えるだろう。

▼一方、日本のホテルや旅館の予約サイトは、上に述べた筆者自身のトラブル体験は論外としても、非効率で使いにくいという印象がぬぐえない。なによりも初めての土地で宿を選ぼうという旅行者にとって、宿の比較が容易でないのである。
 地域のホテルや宿屋がすべて載っている地図があり、その値段まで一望にできるなら、旅行を計画する者にとってきわめて便利なはずである。しかし楽天やじゃらんの場合、ホテルや宿屋が載っている全体の地図はあるが、値段の記載はない。(JTBの場合は、地図上のホテルの位置をクリックすればホテル名と値段が顕われる仕組みになっていて、この点はBooking.comと同じである。)
 もう一つの使いにくさは、各ホテル・旅館には複雑に細分化された数十もの(場合によっては百近い)「プラン」が用意されていて、その中から一つを選ばなければならないことである。「食事付き」か「食事なし」か、部屋が「海に面している」か「面していない」かぐらいのことなら、常識的で合理的と言える。しかし「早割」が付いたり付かなかったり、「美術館入場券」が付いたり付かなかったり、料理のグレードアップがあったり、スキンケア・セットやフェイスマスクやマスコット・キャラクターのプレゼントがあったりなかったり―――、という複雑に細分化された数十ものプラン(それぞれ値段が違う)の中から一つ選ばなければならないというのは、けっこうたいへんな労働なのだ。
 筆者が推測するに、これはホテル・旅館が希望して生まれた「プラン」ではないのではないか。予約サイトは一般に、成約代金の2割程度を宿から受け取ると聞くが、予約サイトどうしの成約獲得バトルの中から、こうした過剰に差別化されたプランが生まれてきたのではないかと思う。だが推測による詮索は、これぐらいにしておこう。

▼日本の労働生産性が低い、と言われて久しい。産業別にみると、特に飲食店やホテル、旅館業などを含むサービス業で低いらしい。空港の仕事はサービス業ではないが、外国と比較が容易なため、筆者は外国旅行から帰ってくるたびに、成田空港で「労働生産性の低さ」に気づかされ、苛立たしい思いをしてきたように思う。
 空港の(入管の?)女子職員が帰国者の列の脇に立って、「パスポートだけをご用意ください」と幾度も声を張り上げているのを見て、驚かされたことがあった。
 帰国者たちはいずれも外国で、入国・出国の手続きを経験して帰ってきたのである。彼らに向かって、「パスポートを用意せよ」と叫ぶ必要がどこにあるのだろう。それとも「搭乗券などは見せる必要がない、パスポートだけでよい」という意味なのだろうか。それなら入管の審査官が搭乗券を見せられた時、それは不要だ、とひとこと言えば済む話だろう。なぜ職員を一人立たせて、叫ばせなければならないのか。
 上の光景は、筆者の中でいまだに不可思議な、意味不明の出来事として残っている。
 日本のホテル予約サイトについて筆者が感じるのも、成田空港の光景にも通じる日本の「生産性の低さ」であるように思う。彼らは、旅行を計画する者へピントのずれた情報提供をしていることに気づかないまま、国内の同業他社とのバトルに精を出している―――。
 日本政府は、外国人旅行者を増やそうとしているが、旅行者が計画を立てようとするとき、日本のホテル予約サイトは(言葉の問題は別として)きわめて使いにくい、という事実を知っておいた方がよい。言葉の障害はChatGPTを活用することで、近い将来容易に乗り越えられると思われるが、「過剰に差別化されたプラン」の問題はもっと根が深く、そこには「日本」の問題のある側面が凝縮されているように見える。

(おわり)

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