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「ひろゆき」論 [思うこと]

▼インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」の管理人(正確には元管理人)西村博之という名前は、耳にしたことがあった。また、掲示板「2ちゃんねる」を何回か覗いたことがあり、このサイトの書き込みで被害を受けた人から、「書き込みを放置していた」責任を裁判で問われた、というニュースを読んだこともあった。だが、筆者と西村博之の関わりはそれだけであり、それ以上の関心を持つことはなく、この男が社会に影響力を与えるような存在になるとは思わなかった。
 ところが現在、西村博之の行動はネット世界にとどまらず、ビジネス書や自己啓発書を次々と出版したり、TV番組にコメンテーターとして出演したりと、活躍の場を広げているらしい。
 「その人気はとくに若い世代に顕著で、若者や青少年を対象とする調査では、憧れる人物として頻繁にその名が挙げられるほどだ」。「今やその存在はネット上のインフルエンサーの域を超え、若い世代のオピニオンリーダー、それもカリスマ的なそれとして広く認知されている」と、学者が論文を書くほどの存在になっているようだ。(「ひろゆき論」伊藤昌亮 『世界』2023年3月号)
 筆者はたまたま伊藤の論文を読み、西村博之が若い世代のオピニオンリーダー的人気を持つとしたら、筆者にとってかなり不可解な「日本維新の会」の現在の「人気」を、解き明かすヒントがあるかもしれないと思った。そこで最寄りの図書館に行って、西村の著書を借り出してきて読んでみた。
 残念ながら期待は大きく外れ、日本の政治社会の地殻変動を読み解く役には立たなかったのだが、別の意味で考えを刺激される部分もあったので、そのことを書いてみようと思う。

▼ひろゆきは1976年生まれ、「就職氷河期」世代である。(彼の著書では、「著者名」を「ひろゆき[西村博之]」と表記している。どの著書でもひらがなのペンネームにカッコ書きで本名を付けているところを見ると、「ひろゆき」は「イチロー」ほど認知されているわけではないと、自覚しているのだろう。このブログでは彼の「希望」に沿って、「ひろゆき」のペンネームで呼ぶことにする。)
 中央大学に入学し心理学を専攻するが、パソコンに夢中になり、1999年に掲示板「2ちゃんねる」を立ち上げ、また在学中にアメリカのアーカンソー州の大学に1年留学した。大学卒業後も企業に就職せずにプログラマーのような仕事を続け、2005年に株式会社ニワンゴの取締役管理人になり、「ニコニコ動画」を開始。2009年に掲示板「2ちゃんねる」を譲渡。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人になり、2019年にSNSサービス「ペンギン村」をリリース。
 現在はフランスのパリに住み、半分“余生のような”生活を送る。自身のYouTubeチャンネルの登録者数は2022年2月時点で142万人、Twitterのフォロワー数は145万人を超える。著書多数。(以上の彼の履歴は、著書の奥書に書かれたものを、著書の叙述によって補足した。)

 筆者が図書館から借りだしてきた彼の著書を、次に示す。
 『論破力』(朝日新書 2018年10月発行)、『このままだと、日本に未来はないよね。』(洋泉社 2019年3月)、『1%の努力』(2020年3月)、『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』(三笠書房 2020年12月)、『ひろゆきのシン・未来予測』(マガジンハウス 2021年9月)、『誰も教えてくれない日本の不都合な現実』(きずな出版 2021年11月)、『ひろゆき流ずるい問題解決の技術』(ダイヤモンド社 2022年3月)、『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか』(集英社 2022年6月)、『無理しない生き方』(きずな出版 2022年7月)。
 図書館にはまだまだ彼の著書があったし、貸し出し中のものも多かった。上のリストは発行年月順に並べておいたが、近年の「著作量」が顕著であり、そのことはよく売れるので彼の周囲に出版社が群がっているということを意味する。
 内容はどれも薄く、同工異曲だが、ひろゆきは自分の「著作量」の秘密を隠さずに述べている。  「……僕は、こうやって本を出す機会をいただいていますが、自分で文章を書くことはほぼありません。しゃべったことをライターさんに筆記してもらったり、僕がだらだらしゃべっているユーチューブの内容を編集者にまとめてもらったりすることで、本を出すことができています。」

▼筆者はざっと目を通しただけなので、読み落としはいろいろあるだろうと思われるが、一応ひろゆきのキャラクターは理解できたし、その主張は結構まともだと思った。
 彼の主張は、日本に明るい未来はないこと、日本経済は悪くなり「貧しい国」になることを前提とし、それでもそこに生きる一人ひとりは十分幸せに生きられるのだと、考え方や心構えについて語るものである。どのようなことを語っているのか、具体的に挙げてみよう。

・日本は遠くない将来、大金を稼げる少数の人と生活を支えるだけで精一杯の多数の人に分かれる。非正規雇用はさらに増える。
・日本でしか暮らせない人はきつい。自分が「2ちゃんねる」の裁判になっても案外強気でいられたのは、「困ったら日本を出てほかの国へ行けばいいや」と思っていたからだ。
・海外で仕事をするから学歴なんて必要ないというのは、大きな勘違い。海外に出たければなおさら学歴を軽視してはいけない。
・これから人口が減少して高齢化が進むのだから、ローンを組んで家を買うのは、郊外の土地や家などの場合、損をする可能性が高い。
・楽をして稼ぐためにプログラミングのスキルを身につけることは有効だ。プログラミングを早く自分のものにするコツは、すぐれたものを真似すること。分からないことは詳しい人に聞くこと。独学で頑張ろうとすると、大事なことと本当はどうでもよいこととの区別がつかず、最短の道を通れない。
・プログラミングはググってコピペすればできる。(グーグルで検索して必要事項を調べ、すぐれたプログラムをコピーして自分のプログラムに貼り付ければ出来上がり、という意味か?)
・年金は払っておいた方が得である。
・新卒で入った会社には三年間いた方がよい。
・「起業して一発当てよう」はだいたい失敗する。起業して一番難しいのは、あなたにお金を払って何かを頼もうという人と、いかにして出会うかということだ。組織にいるあいだに、そのことをじっくり学ぶべきだ。
・仕事を選ぶ場合、給料の多い少ないも大事だが、人から感謝される仕事かどうかという基準で選んだ方が、仕事のストレスが減って楽に生きられるかもしれない。
・世の中にはコンビニの仕事のように、スキルのたまらない仕事もある。
・若い人が選挙に行っても政治は変えられない。20~39歳の人全員が投票に行っても、40歳以上の人の多くが投票するなら、そちらの意見が尊重される。―――

(つづく)

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