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ウクライナ戦争に思う2 [思うこと]

▼ウクライナ戦争について、大方の予想を裏切る展開がこれまで幾度かあったように思う。
 先ず当初、昨年2月24日にロシア軍が攻め込んだあと、世界はウクライナ政権が倒れることを予想した。プーチンは、首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権を傀儡政権に替えることは容易であると考えていたし、米国もゼレンスキーに亡命を勧めた。
 E.ルトワックも、「ウクライナ軍による組織的な抵抗は、あと数日も続かないだろう。だがプーチンが展開する十数万人程度のロシア軍の兵力では、首都キエフや一部の都市を占領できても、全土を掌握するにはロシア軍の総兵力の半分にあたる50万人規模を投入する必要がある。完全な制圧は現実問題として不可能に見える」と語り、当面のロシア軍のウクライナ占領は避けられないと考えていた。(2022/2/25の産経新聞のインタビュー記事)。
 ところがゼレンスキーは亡命せず、ウクライナ人の抵抗の士気は高く、ウクライナ軍はよく戦い、世界の予想に反して首都キーウは占領されなかった。
 首都キーウの占領に向かったロシア軍を阻んだものは、もちろんウクライナ軍の抵抗でありロシア軍の作戦の誤りだったが、もう一つの要因として秦郁彦が強調するのは、「泥将軍(ラスプティツァ)」である。ウクライナの黒土は、コップ一杯の水が浸み込むと一夜にして泥土に変わる、と言われている。プーチンの侵攻のゴーサインがなぜか遅れたために、ロシアの戦車や軍用トラックが進行を開始したときには気温が上がり、凍土は一転して水を含んだ泥土に変わっていたというのだ。
 たしかに筆者も、ウクライナに侵攻したロシア軍の車列が延々と続く映像を、TVで観た記憶がある。こんなに沢山の戦車やトラックを相手にするのでは、ウクライナ軍もたいへんだな、というのが軍事知識ゼロの素人のその時の感想だったのだが、そうではなかったのだ。
 「本来だと戦車隊は横一列に展開して守備側の陣地を突破し」、そのあと歩兵が敵を排除して敵陣を占領する手順となるが、泥土状態の中では舗装された幹線道路しか使えず、そのため渋滞を引き起こした情景が、縦一列で延々と続く車列の映像なのだという。(『ウクライナ戦争の軍事分析』秦郁彦 2023年6月 新潮新書)
 3月10日、ウクライナ軍はキーウ近郊のプロバルイでロシアの戦車隊を待ち伏せし、急襲、撃破した。先頭と最後尾の戦車をまず炎上させ、動けなくなった戦車群を携帯ミサイルや支援の戦闘爆撃機で次々に仕留め、ロシア軍は壊滅的な損害を出して退却した。
 3月25日、ロシア国防省は、「第一段階の作戦は終了した。次は東部のドンバス地区へ兵力を集中する予定」と発表し、キーウ占領をめざしたロシア軍は一斉に撤退を開始した。プーチンの言う「特別軍事作戦」を始めて1か月後に、ロシア軍は所期の目的を達成できぬまま、「転進」することになったのである。

▼ウクライナの東部から南部にかけて、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州が存在する。東部に「転進」したロシア軍は、ルガンスク州の占領地を全域に拡げ、ドネツク州ではアゾフ海に面するマリウポリの市街地を、激戦の末に占領した。しかしウクライナ軍と市民約2千人はアゾフスタリ製鉄所の地下シェルターに立てこもって抗戦を続け、彼らが投降したのは5月半ばになってからだった。
 ロシア軍はマリウポリの占領によって、ウクライナ東部とクリミア半島を繋ぐ回廊を確保した。
 ウクライナ軍への米国とNATO諸国の軍事援助が6月ぐらいから実戦に使われはじめ、米国のハイマース(高機動ロケット砲システム)は、ピンポイントでロシア軍の現地司令部や弾薬庫などを攻撃し、成果を上げた。
 9月6日、ウクライナ軍はドネツク州の北に隣接するハルキウ州で反転攻勢を開始。南部のヘルソン州での戦闘を予想していたロシア軍は、不意を突かれてパニックに陥り、大量の戦車や装備品を残して敗走した。ウクライナ軍は、わずか5日間でハルキウ州の2500平方キロメートルを奪還した。
 ウクライナ軍はその後も手を休めず東進し、10月1日にはドネツク州の北にある鉄道の要衝リマンを解放した。
 11月11日、ロシア軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソンを含む、ドニプロ川右岸から撤退した。

 ロシア軍が東部に「転進」した後の戦況は、ウクライナ軍のハルキウ州での目覚ましい勝利などもあったが、基本的には膠着状態にあったということらしい。ロシア軍が「火力重視の伝統に立ち返り、集中砲撃でウクライナ軍の陣地を徹底的に叩いたのち前進する堅実な戦法」(秦郁彦)を採るようになると、ものを言うのは砲兵火力や戦車など物量の大きさになる。ウクライナ軍には旧式のソ連製の戦車しかなく、その面で圧倒的に不利と見られていた。
 ゼレンスキーは武器の提供、なかんづく新型戦車の提供を米国やNATO諸国に強く求め、米欧諸国の首脳はドイツ製の「レオパルト2」をはじめとする新型の戦車を提供する決断をする。しかし米欧諸国が戦車を提供する決断をしても、ウクライナの兵士がその操縦に習熟し、実戦で成果を上げるようになるには時間が必要である。ウクライナの戦力として新型戦車が活躍するのは、冬を越し、春の泥土が固まる2023年の5月ないし6月頃になるのではないか、と言われた。

 一方プーチンは、9月21日に予備役兵32万人の動員を発令した。ロシア国内の動揺が危惧されたが、軍の態勢を立て直すためには動員をかけるしかなかった。だが新たに招集した兵士を訓練し、実戦に投入するためには、数カ月かかるだろうと言われた。
 プーチンはまた、ロシア軍が占領しているルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州を、ロシア領に編入する大統領令を9月30日に公布した。

(つづく)

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