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ひろゆき論3 [思うこと]

▼筆者が観たABEMA Prime というネット番組の2本目は、ウクライナ戦争についての議論だった。ウクライナ戦争に関して声明を出した「憂慮する日本の歴史家の会」のメンバーの一人・羽場久美子(青山学院大学名誉教授・国際政治学専攻)が戦争に対する考え方と声明の趣旨を説明し、他の出席者が疑問や意見を述べるという内容だった。番組がいつ作られたものか明示がなかったが、話の内容から昨年(2022年)の5月20日前後だろうと推測された。
 羽場は、「即時停戦」を訴える声明を出した理由を、次のように説明した。
 「戦争をするにはどちらにも理由がある。日本のメディアはこれまでアメリカ寄りの情報ばかり流してきたが、多面的に問題を見、自分の頭で考えることが必要だ。
 ロシア、ウクライナとも停戦交渉を何度か行い、なんとか停戦に向かいたいと考えているのに、アメリカなどがロシアを弱体化させるために、戦争を継続させたいと繰り返し言っている。戦争によっていちばん被害を受けるのはウクライナ国民であり、とにかく早期に停戦を実現することが大切だ」。
 また、ひろゆきが、「停戦すればウクライナの被害が終わるかのような主張は誤りだ。ブチャでは虐殺があり、マリウポリでは10~50万人がロシアに強制的に移動させられた。停戦が軍事的支配地域を固定させるものだとするなら、ロシア軍支配下に置かれたウクライナ人にとって、停戦は被害の継続を意味するものだ」という持論を述べたのに対し、羽場は次のように発言した。「ウクライナ東部にはかなり多くのロシア系住民が住んでいる。彼らは2014年にポロシェンコの欧米寄りの政権が誕生して以降、自治を要求したが、アゾフ大隊は虐殺を繰り返し行った」。
 ここでひろゆきが、「その証拠はあるのか」と嚙みついた。
 「国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、東部のロシア人に対してアゾフ大隊が人権侵害を行っているという資料をたくさん出しています。2014年以来、東部ドネツク・ルハンシク⒉州で、ウクライナ政府軍との戦闘で1万4千人の死者を出した、と推計されています。」
 「戦闘による死者と虐殺は違う。先ほど虐殺があったとおっしゃった。虐殺は何月何日に何人あったのか?その証拠はどこにあるのか?」
 ABEMA Primeの番組事務局が、「アゾフ大隊による非人道的行為」に関する国連報告書の一部をパネルに要約して示した。それによると、(ロシア系)住民を地下室に拘束して拷問したとか、男性の首にロープを捲きつけ気絶するまで引きずり回した、というような事例がたくさん報告されているが、 「ロシア系住民の大量虐殺」の事例はないらしい。
 羽場は、「虐殺」の主張を続けることはしなかったが、発言を明瞭に撤回することもしなかった。ひろゆきは、「根拠のない、ウソをおっしゃったんですね」と、勝ち誇ったように言った。

▼「たかまつなな」という元NHKディレクター、現在「時事YouTuber」という肩書の女性が発言した。「今の(羽場とひろゆきの)話は、ウクライナの人たちの気持にまったく触れていない。それはおかしくないか?先週イギリスに取材で行き、ウクライナの女性たちの話を聞いたが、彼女たちは、国民の独立なくして平和は考えられないと言っていた。男性の出国制限のため、パートナーと別れて暮らしているが、国を守るためにこれは必要なことだと考えている。停戦の合意は望ましいが、そのためにウクライナの人たちが我慢を強いられるとしたら、それは違うと思う」。「即時停戦を求めるというキレイごとの議論より、難民の受け入れをどうするかを議論することの方が、よほど現実的で必要なことだと思う」。―――
 羽場など「即時停戦」の声明を出した学者たちに対する批判だが、国民の多くの賛同を得られる考え方であろうと思った。

 このABEMA Primeの番組で最も筆者の興味を引いたのは、羽場の「ロシア、ウクライナともなんとか停戦したいと考えているのに、アメリカなどがロシアを弱体化させるために、戦争を継続させたがっている」という発言だった。彼女はまた、「戦争は2022年の2月24日に始まったのではない。2014年のマイダン革命から始まった。ウクライナがロシアを押し返すと、その前の(2022年の侵略開始前の)状態に戻るので、結局東と西が内戦を戦い続けるという状況が続くんです」とも主張した。これらは驚くべき発言と言ってよい。なぜならそれは、ウクライナ国民の被害を止めるためと称しつつ、プーチンの主張に限りなく寄り添うものだからだ。
 「ウクライナもロシアも停戦したいと考えているのに、アメリカなどがロシアを弱体化するために戦争の継続を望んでいる」という観察は、ずいぶん歪んだ見方をするものだなと、ある意味で感心した。現在アメリカにとって対峙すべき相手は、第一に中国であり、すべての資源をそこに集中したいところだが、ウクライナ戦争はそれをさせず、攪乱する要素として作用していると言えるのではないか。
 NATO諸国においても、ウクライナ戦争はエネルギーや食糧の価格の高騰を招き、国内政治上早く終わらせたい問題であるはずだ。しかしもしロシアがウクライナを併合したり、一部であってもその領土を占拠し、実質的に自国領とするような成功体験を修めるなら、今後の脅威は計り知れない。だからウクライナ支援に力を入れるのであり、ロシア支持の立場からは、NATO諸国の支援により「戦争はいつまでも継続される」ように見えるのであろう。

▼筆者にとって、あるいは多くの人びとにとってウクライナ戦争が衝撃だったのは、それが第二次大戦後に営々とつくられてきた世界の「秩序」を、いとも簡単に破壊する行為だったからである。
 二度の世界大戦を経て、世界の国々は国家主権の平等だけでなく、現実の軍事力を反映させた制度として国連憲章と国連組織を創り、運営してきた。そのように現実の実効性を考慮して創られた安全保障理事会ではあったが、現実には米国とソ連の利害の対立によって、強制力を発動できる機会はきわめて限定的だった。しかしそれでも、その常任理事国自身が憲章に違反して侵略行為を開始するようなことは、それまでなかった。
 そのような世界政治の危機であるにもかかわらず、「国際政治学者」の口から世界秩序の破壊がもたらす深刻な事態が語られず、ウクライナ人の被害を止めることを名目にする「即時停戦」の旗だけが掲げられる。それはあまりにもお粗末ではないかと、筆者は思った。

(つづく)

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