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ロシアのウクライナ侵略 4 [思うこと]

▼ロシアによるウクライナ侵略の開始(2/24)から、3カ月と10日が過ぎた。戦争の勃発は多くの人の予想しないものだったが、その後の展開もまた、良い意味で人びとの予想を裏切るものだった。ロシア軍の侵攻をウクライナがこれほど長期にわたって耐え、一部では反攻に転じるような展開になるとは、世界の軍事専門家たちさえ予想していなかったからだ。
 ウクライナの強さは、何よりも国民の意志の強さにあるのだろう。普段から隣国ロシアの脅威に対し、軍備を整えるとともに建物にシェルターや地下室を設け、戦争勃発後、空爆や砲撃によって家や街を焼かれ、国外に500万人が避難するような事態になっても、降伏しようという声は上がらない。ゼレンスキー大統領の支持率は、戦争勃発直後に9割を超えたと伝えられたが、国民は結束して苦難の時機を乗り越えようとしているように見える。
 もう一つ、ウクライナの抵抗を支えているものに、NATO諸国からの武器の供与がある。とくに米国が供与した携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」や携行型地対空ミサイル「スティンガー」が、威力を発揮したという。
 「ジャベリン」は、兵士が肩に担いで持ち運び発射する筒状のミサイル兵器で、発射前にロックオンした標的に自動誘導して命中する。ロシア軍の戦車を装甲の薄い上部から攻撃し、破壊することが可能なのだそうで、遺棄された焼け焦げの戦車の映像がTVニュースでたくさん紹介されるが、なるほどそういうことかと納得させられる。
 軍事専門家の話では、「ジャベリン」も「スティンガー」も目新しい兵器ではないという。しかしアフガン戦争など、近年のテロ組織相手の戦闘では、相手が戦車やヘリコプターを持たないために出番がなかったのだ。今回、それが脚光を浴びているのは、戦争の形が正規軍同士の地上戦へと回帰したことを意味している。

▼戦争は、正規軍同士の地上戦というスタンダードな形態で行われているものの、それを取り巻く環境はかっての戦争とは一変している。戦争の実態が映像により毎日茶の間に届けられ、世界中の人びとがそれを解説付きで観ているのだ。
 もちろんロシア軍とウクライナ軍が砲撃し合う現場を、上空から俯瞰するような映像はない。しかし戦闘のあとに残された黒焦げのロシアの戦車やトラック、ミサイルや砲撃によって破壊された家々や集合住宅、弾痕で穴だらけにされた車や人影のない廃墟と化した街を映し出す映像は、戦争がどのようなものであるかを雄弁に語る。
 戦争の映像はTV局などのプロのカメラマンによって撮影されたもの以外に、普通のウクライナ市民のスマホで撮られたものも多い。情報通信技術の進化により、普通の市民が能動的にこの戦争に関わり、見たものを映像で送り、自分の考えを発信することが可能となっているのだ。

 情報通信技術の進化に関しては、坂村健などによる次のような解説を新聞で読んだ。
 ウクライナはエストニアと並ぶ東欧のIT強国なのだそうで、地理情報システム(GIS)の技術者も多く、シリコンバレーからウクライナに発注するケースもあるほどだという。このGISを利用した砲撃支援システムを、ウクライナ軍は開発した。通信ネットワークさえあれば、現場のタブレットから指示を出し、一つの目標に対して近くの榴弾砲、迫撃砲、ミサイル、攻撃ドローンから同時に着弾させる分散攻撃が可能になる。ロシアの防御システムは敵の集中砲撃を前提にするものなので、これに有効に反撃できない。
 そこでロシア軍は、ウクライナ軍の通信ネットワークを攻撃し、通信を妨害する挙に出た。この危機を救ったのが、イーロン・マスク率いる宇宙企業「スペースX」の提供するインタネットサービス「スターリンク」だった。
 スターリンクは、小型衛星を使うインターネットシステムである。一般にネットシステムは、地上の基地局を電波や光ファイバーで繋いでつくられているが、スターリンクは通信電波を人口衛星で中継する。衛星と通信する直径55㎝ほどのアンテナがあれば、高速インターネットが使用できる。
 ウクライナのデジタル転換相がツイッターでイーロン・マスクにサービス提供を求めたところ、マスクがそれに直接答え、10時間半でウクライナでのサービスを可能にし、5,000台の通信セットを送り込んだ。指向性電波で真上に向けた暗号通信は、旧来の方法では妨害できず、発信位置も簡単には分からないのだという。
 ロシア軍によって包囲され、熾烈な攻撃にさらされていたマリウポリで、製鉄所の地下に立てこもった部隊が、投降する最後まで政権中枢とTV会議で結ばれ、緊密に連絡が取れたのも、このスターリンクの威力を示すものだ。情報通信技術は、軍事面で直接ウクライナ軍を支えるとともに、国民の日常の情報交換や意思表明を可能にし、抗戦意志を支えている。

▼ウクライナ戦争は、まだまだ終わりが見えない。
 ウクライナからすれば、プーチンが勝手に始めた戦争なのだから、戦争をやめる、やめないはプーチンが決めることだし、侵入してきたロシア軍がウクライナ領土から撤退し、ウクライナに与えた損害を賠償しなければ、戦争は終わらない、ということになるだろう。この理屈は分かりやすいし、世界の多数のひとびとに支持されるだろう。
 一方、ロシア側の言い分は分かりにくい。これまでにプーチンの口から語られた戦争目的は、① NATOの拡大はロシアへの現実的脅威であり、それを阻止するためにこの戦争は必要だった
 ② ウクライナに住むロシア系住民を保護する必要があった
 ③ ネオナチの脅威への反撃
といったものだが、そのどれもが世界を納得させるものではない。ロシアの国内消費用の「理屈」以上のものではないのだ。
 「ネオナチ」だと攻撃されたゼレンスキー大統領は、自分の祖父が第二次大戦で、ソ連の兵士としてナチス・ドイツと戦ったことを挙げて反論した。世界の世論は、ユダヤ系のゼレンスキーを「ナチ」だと言いつのるロシアの荒唐無稽さに、そもそもウンザリしている。
 するとロシア外相・ラブロフは、「ヒトラーにもユダヤ人の血が流れていた」と発言(5/1)し、これにイスラエルが猛反発し、プーチンが詫びを入れるといったドタバタ喜劇の一幕もあった。
 5月9日のロシアの「戦勝記念日」にプーチンは、「……ウクライナ政府は……NATO諸国から最新の兵器が定期的に供給され……脅威は日に日に増していた。ロシアは侵略に対して、先制的な攻撃をした。それはやむをえない唯一の正しい決断だった」と演説した。ロシアの行動の正当性を国外へ向けて訴えることはあきらめ、国民の支持固めにしぼった演説内容といえるが、世界で孤立したプーチンの立場がうかがえた。

 ウクライナの戦争は、いつまで続くのか。
 戦場で決着がつく場合を別にすれば、それを決めるファクターとしては、ロシアの世論の動向、ロシア経済の動向、ウクライナを支援する欧米の世論の動向と欧米諸国の結束の行方、そしてウクライナ人の戦意などが挙げられよう。今後の世界の政治秩序に巨大な影響を及ぼすこの戦争の行方を、筆者も自分の問題として注視し、考えていかなければならないと思っている。

(つづく)

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