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めくら判 [ことば]

▼ 先日、BSフジの「プライムニュース」で、東日本大震災への政治の対応について政治家や学者を呼んで議論していた。
 福島第一原発の事故をめぐり、監督官庁である原子力安全・保安院や原子力安全委員会の責任について話題が及んだとき、自民党の加藤紘一が次のような発言をした。
 「᠁᠁原子力安全委員会の委員は国会の承認事項ですから、われわれ政治家みんなに責任があるんです。みんなめくら判を押していた᠁᠁」
 発言が終わらないうちに司会の女性アナウンサーが何ごとか口を挟んだが、言葉が重なり合って聞き取れなかった。スタジオの前後の様子から、彼女は加藤の言った「めくら判」という言葉を聞いて、あわてて反応したらしいと推測された。



▼「差別用語」の問題を、そのそもそもからここで議論するつもりはない。だから、「めくら」という言葉の使用を控えるというテレビ局の方針を、いちおう合理的だと仮定してもよい。だがその方針を「めくら判」にまで拡げるのは、いささか非常識で滑稽なことではないだろうか。
 「めくら判」は、決裁文書や趣意書の内容を吟味せずに承認・同意のハンコを押すことである。「めくら」、つまり言うところの「目の不自由な人」とは、まったく何の関係もない。



 何の関係もない言葉にメクジラを立て、さも関係があるかのように理屈をこねくり 、自粛してみせる。一見もっともらしいが、実態は臆病な事なかれ主義であり、言葉をなりわいとしながら日本語に対する責任と愛情を欠いている。
 真偽のほどは知らないが、「盲滅法」や「片手落ち」、「つんぼ桟敷」なども同様に禁句リストに載せられ、マスコミ業界では使えないと耳にしたこともある。



 ▼何の関係もないことがらの間に理屈を無理やりこねて因縁を付け、どうオトシマエつけるんだ、と凄むのがヤクザの仕事だそうだ。
 作家の安倍譲二がヤクザ組織に加わっていた若いころ、兄貴分にこう叱られたという。
「ヤクザというのはな、テレビコマーシャルひとつだって、お前みたいにニタニタしながら気を許して見てちゃいけない。どう考えたってイチャモンのつけようがないものに向かって、無理に無理を重ねた理屈をつけて、人さまの懐をエサにして生きる。それがヤクザというもんだ。」(『極道渡世の素敵な面々』)
 かの兄貴分は、マスコミ業界の自粛・禁句リストを知れば何と言うだろう。カタギでもこれぐらい頑張っているのだから、お前たちはもっと根性入れてやれ、とでも言うだろうか。



▼ 前後左右どこから見てもバカらしいものを含む禁句リストが、問答無用で定着しているらしいマスコミ業界に対し、日本語を母語とする者としてやはり一言言っておくべきだろう。マスコミ業界は、原発問題にしろ何にしろ「情報公開」「説明責任」を言い立てるが、自分たちがどのような禁句・言いかえリストを作っているのか情報を公開し、その合理的理由を説明する責任がある、と。
 放射線の被害は目に見えず、長期にわたって蓄積され人体に影響を及ぼすものであるが、同様に愚かな事なかれ主義の影響も蓄積され、健康な文化に否定的な影響をを及ぼすことは避けられない、と思う。


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